心正しいサッカーファンでありたい

脚本家の微笑み返し

 

 サッカーU23日本代表が、オリンピックにいけることになって本当におめでとう。
さてあの3月18日、私たちは日本対UAEの試合を固唾を飲んで迎えながら、一方でバーレーン対レバノンの試合にもヤキモキしなければならなかった。

実は3月16日の日本対レバノンの試合後、レバノン監督の記者会見で日本の記者が、「レバノンは同じ中東国のバーレーンをオリンピックに行かせるために、次の試合では手を抜くのではないか」などというとんでもない質問をしている。
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/athens/column/kaiken/0316reb_01.html

 いやあ、実は私とてそんな一抹の不安がなかったわけではない。差し迫る不安から、そんなこともアリと考える己を戒めるためにも、水ごりやお百度参りに励んでいた私である。しかしだ。わたしは当の本人にそんな破廉恥なことは聞けない。聞きたいが聞けない。

 そんなとんでもない質問に、レバノンの監督は、「てめえ、ゲスな日本人が勘繰ってんじゃねえよ」とブチ切れることもなく、「誇り高い日出る国の民族であった筈のみなさんがそんなことを考えるのは、アメリカ型合理主義に影響された社会の歪によるものでしょうか」などと論じるわけでもなく、ただ「私たちは次の試合で勝てるようにベストを尽くします」と言った。スポーツマンとして当然のことをしますと言ってのけたのだ。スバラシイ。そして恥を知れ質問した日本人記者。私だってそんな質問はしないぞ。…思ってはいたけど…。

 そして試合はどうだったか。バーレーン対レバノンは1-1。レバノンは見事にバーレーンから勝点1をもぎ取った。タイトな日程で組まれた6試合の最終戦である。どのチームもコンディションはボロボロだった筈だ。しかもレバノンは勝ったとてオリンピックにはもう出場できない。それでもレバノンの選手たちは死力を尽くした。大量点を狙って襲いかかるバーレーンの猛攻を、耐えしのいだ。

 レバノンとは、パレスチナとイスラエルの紛争の渦中で戦火の耐えない国だ。今やパレスチナ勢力どうしの銃撃戦やテロも起こるなど、日常に銃声や爆音がある国だ。レバノンの選手たちはそんな故国で応援している人々のことを思って戦ったに違いない。そんな選手たちのスポーツマンとしてのプライドを揶揄するような質問を日本人がしたということについて、私たちはかの国に向かって謝罪し、滝に打たれて心を入れかえなければならない。

 U23日本代表はオリンピック出場を決めて、今度はA代表のワールドカップ予選が注目される。これからアジア各国との激しい戦いを勝ち抜かなければならない。だが私たちは忘れてはいけない。日本は、強いチームを作るための経済的な環境ということでは、とても恵まれた国であること。そして多くの国が、そうした日本の環境を羨望しながら、だからこそ歯を食いしばって日本に立ち向かってくるということを。しかし今や百日間滝に打たれて修行した私たち日本人は、そのことを受け止め、結果にかかわらず対戦相手の闘志を称えるであろう。そうでありたいと願う。

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。