静かな正月

脚本家の微笑み返し

 

 謹賀新年
 昨年の正月は、娘が暮れから入院するなどあわただしかったが、今年は静かに新年を迎えることができた。静かと言えば、さるやんごとなきお方をめとられるあの方は、「どんな家庭を築きたいですか」という質問に対して「静かな家庭」と答えておられたが、私も、かかるお言葉に共感を覚えた次第でございます。

 そこで、新年の朝陽を臨む前に、滝に打たれ身を清め、さらに写経をしながら心静かに新年のスタートを切った私である。朝靄の中から初春の陽光が、我が家の白亜の壁を照らした頃、息子は紋付袴に、娘は十二単にと身支度を整えている。
「これ、そこに座りなさい」
 子どもらは、囲炉裏端に仲良く座ると、新年早々、父親のありがたい薫陶を受けるのであった。
 その後、私は小判で1両ずつを、農協でもらったお年玉袋に入れ、子どもらに与えるのだが、4歳の息子が、
「父上、国内外で災いが多く、とても心が痛みますゆえ、今年はお年玉をいただかぬことといたします。どうかそれは世のため人のためにお使いくださいませ」
と言うので、その小判を我が家の家宝斬鉄剣で、50分割し、それを50個の餅につめて、たまたま通りかかった飛脚に託したのであった。

 しかしその餅は、昨年末、地蔵さまが笠のお礼にと持ってきてくださった最後の50個の餅であった。
「今年は餅のねえ雑煮だべさ」
と、絣のモンペを着た妻が言うので、
「なーんも、息災だばありがてえこった」
と、私は囲炉裏にかかった、餅の入っていない雑煮の鍋を掻きまわすのだが、寒さで手がかじかんでおり、お玉を鍋の中に取り落としてしまった。

 するとどうであろう。鍋の中の雑煮がくるくると渦を巻いたかと思うと、中から藤原紀香が出てきて
 「そなたの落としたお玉はこの金のお玉か、銀のお玉か?」
と聞くではないか。もちろん私は正直に、道場六三郎デザインの鉄人3点セットのお玉だったと言ったのだが、「お前は正直なヤツだ」というので、金のお玉と銀のお玉をくれたのだった。

 今年は、そんなどこにでもある家庭の正月を静かに過ごすことができて、ありがたいことであった。

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。