笑わせながら戦争を語る

脚本家の微笑み返し

 

 8月15日に「平和へのメッセージfrom知覧 第16回スピーチコンテスト」にゲストとしていらした永六輔さんは、自らの終戦の日の話で笑いをとりながら、「笑わせながら戦争や平和を語る」ということを提言された。そしてその例として井上ひさしの芝居で、映画にもなった「父と暮らせば」を紹介された。

 なるほど、映画版はみてないけど、芝居の「父と暮らせば」は以前観て、ほのぼのとさえする可笑しさの中に、戦争への憎しみを込めたすごい芝居だなあと思ったものだ。

 で昨夜、今井雅之の「ウインズ オブ ゴッド」を観た。笑わせながら特攻を語っていた。すぐに永六輔さんの言葉が思い出された。これは、知覧の劇団にはできないことだ。史実があまりにも生々しくそこにある知覧の劇団には「ウインズ オブ ゴッド」はできない。がしかし、永六輔さんの言わんとすることがわかるような気がした。観客はすべてが漫才のネタのように展開する話に腹をよじりながら、次々に命を落としていく若者の心情に感情移入し、会場のノイズは笑い声から鼻をすする音にいつしか変わっていた。

 「劇団いぶきはどんな芝居をする劇団ですか」と聞かれれば、私は迷わず「コメディーです」と答えるだろう。以前にもコラムに書いたが、私がやりたいのは泣かせるコメディー、あるいは笑える悲劇だ。笑わせながら「命ってなんだ? 家族ってなんだ?」と考える。それが「ナム!」であり「きつね。」であり、「恋と神様とねぷた囃しと」であった。なぜ笑わせなければならないか?そりゃもちろん、観てもらいたいからに決まっています。どんなに崇高なテーマを語っても、観てもらえない芝居じゃ何も伝えられない。しかしまだ、笑わせながら「戦争」を語るという勇気が私にはない。

 「笑わせながら戦争を語れるようになった」のか「笑わせないと戦争のことを聞いてもらえなくなった」のかはわからない。が、これからは戦争をそうやって表現することもアリの時代に突入した。劇団いぶきもいつかその必要に迫られる時が来るのだろうか…と、戦後60年の節目によせて思ってみた次第です。  

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。