富良野塾ワークショップと老後の私

脚本家の微笑み返し

 

 富良野塾OBの役者納谷真大さんと森上千絵さんを招いてのワークショップを行った。参加者は劇団いぶきと劇団ぶえん、そして地元高校演劇部員などなど。

 田舎で芝居づくりをやっていて、田舎でもいいものは創れるのだという自負はあるものの、技術や感性を磨くための研修の機会はほとんどない。参加した劇団員には貴重な経験となったことだろう。

 私は素人の演出担当者で、劇団いぶき以外に演劇の経験もなく、見よう見真似しようにも演出家の演出光景なんて見たこともなかった訳で、まったく自分のカンでやってきたのだけれど、ワークショップの間、講師の納谷さんの話しをずっと聞いていて、私のやっていることや、私が役者に言っていることも、あながち間違ってはいなかったと感じることができた。

 例えば、スローモーションの実践。森上千絵さんのスローモーションは、驚くべき技術で、もうこれでひとつのパフォーマンス、入場料をとれるくらいすごかった。素人が簡単に出来る訳ないけど、その講習の中で「頭の中もスローにする」「本当に風を感じる」とう指導に、心で感じなければ、体だけでは表せないという、役者として当たり前のことを改めて読み取ることができた。

 今まで、なんの技術もない田舎劇団の演出担当者が、役者に語れることは、「登場人物の心を役者の心に同化できるか」ということしかなかった。
だから、間違ってはいなかった…と思う。たぶん…が、今回のワークショップを目の当たりにして、まだまだ芝居って奥が深いと思う。きっと二人の講師はその奥深さの一端を、短い時間で紹介してくださったに過ぎない。知っていけば、劇団の表現をレベルアップしていけることはまだまだたくさんある。

 最後に、我々の「ほたる かえる」を講師と参加者のみなさんに観ていただいた。懇親会の席で、納谷さんは、「ほたる かえる」を評価してくださると同時に、もっとレベルアップするためのアイデアや意見を真剣に語ってくださった。「訓練されたものでなければ客は感動しない」それはプロもアマチュアもない。仕事をしながら芝居をつくる我々には、訓練をつむ時間は少ないけれど、忘れてはならない言葉だ。

 さて、そのありがたい講師納谷真大さんと森上千絵さんは、なんと「優しい時間」と「Drコトー」に出演していた方だった。納谷さんは、「優しい時間」で杉田かおるからパンチをくらうペンションオーナー、そして森上さんは、なんと長澤まさみ演じるアズのお姉さんだった。

そしてそして、「Drコトー」ではお二人であの、アキおじの息子夫婦を演じていたのだ。アキおじは、島に赴任した五島医師(コトー)に強烈な影響を与えるじいさんで、そのアキおじの死は、五島医師の人間性を知るうえでの重要なエピソードとなっていた。手術で開腹したものの手遅れだったことを息子夫婦に伝える五島医師、呆然と聞いていた息子は、やおら大粒の涙を流しながら「先生はおやじのことは助けてくださらんとですか」と…。それを受けた五島医師の表情はなんとも言えなかった。そして遂にアキおじが死んだとき、それまで献身的に往診を続けた五島医師に息子夫婦は「じいちゃんは先生に診てもらえて幸せでした」と、また泣きながら礼を言うのだ。一人ひとりの患者が島の医師にとってどういう存在なのかがうまく表現されていた。

その息子夫婦を演じておられた方々が、なんと今回の講師だったことを知ったのは、ワークショップが終わって懇親会に入ってからだったのだから、私としたことが情けない。いや、納谷さんも森上さんも、離島の島民夫婦とは全然違う、若手演出家夫婦然としたかっこいい空気を持っていらしたのだから仕方ないのだ。

まあ「銀の龍の背に乗って」を着メロにして、恥ずかしいのでいつもマナーモードにしている私としては、たいへん不覚であったことは事実だが、これからは、またテレビに出演されたときに、「この方とはいっしょに飲んだことがある」と自慢げに語る楽しみが増えたというものだ。で、お二人が今後活躍すればするほど、私の気持ちの中では「ワークショップの講師で、その後の懇親会でいっしょにお酒を飲んだ方」から「芝居を教わって、いっしょに飲んだ方」になり、「芝居の師匠で、飲み友達」に発展し、「芝居の話しをしながら飲んで意気投合しちゃった」ことになり、数十年後には大親友になっていることであろう。「へー、じいちゃんこの俳優さん知ってるの?」「ああ、若けえ頃ちょっとな…」そう言ってなつかしい記憶をたどるような目をする私だろう。

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。