視力のはなし

脚本家の微笑み返し

 

 毎週3回、鹿児島市まで小学4年生の娘を連れて出かける。知覧町内の自宅から手蓑峠を越えて三十数キロ、自分のためだったら、仕事の後の気だるさに負けて続きはしないだろうが、娘のためとなると、疲れを感じないから不思議だ。

 娘は、小学2年の頃から視力が落ち始め、昨年夏に眼科に暫く通ったものの結局秋口には片眼0.15まで低下し、とうとう眼鏡を勧められた。その頃、人づてに鹿児島市内に視力回復のための施設があることを聞き、ダメ元で通ってみたところ、昨年暮れには片眼0.6、両眼0.7にまで回復させることができた。両眼0.7は、運転免許に眼鏡の条件がつかない最低ラインであると言う。

 今年に入ってからは、自宅で簡単なトレーニングを続けていたのだが、夏休みの不摂生によって、またまた両眼0.5に下がってしまったため、この9月から再び通っているという次第だ。夏休みからすでに下がっていたのだろうが、普段の生活では困らないからその意識がなく、学校が始まって黒板を見て気づいたらしい。

 してみると、教室で黒板を見たり、車を運転する以外の日常生活では、0.5くらいの視力で十分なのかなとも思う。昔は、5百メートル先のチーターが見えないと命の危険があったし、天井の裏側の忍者を見つけて、忍者の片足を槍で突き刺して「なにやつ!ものどもであえであえ」と言わなければならなかったので、私も常に視力は1.5を維持していたものだが、チーターも忍者もこの界隈では絶滅してしまったので、視力1.5を維持する意味がなくなってしまった。それでも現在1.0くらいはあるので、五十メートル先の看板も読めるし、十メートル先の美女の心くらいなら読めてしまう。「あのおやじ、ニヤニヤしてこっちみてる、キモイ」ってほらね。

 逆に、近くのものが見づらくなってしまった。書類や本を読むとき鬼のような顔をしている自分にふと気づくことがある。そのまま続けていると頭の芯が痛くなる。つまり私の視野は、四十センチ以上離れた10ポイントの活字から五十メートル先の看板もしくは、十メートル先の美女の心までということになり、これではもうNASAのパイロットになるのはあきらめざるを得ないだろう。

 娘の視力は、両眼0.65になり、本人は1.0を目指しているものの、ずっと鹿児島市内に通い続けるわけにもいかないから、どのあたりで落ち着くのかわからない。いつかは、眼鏡に頼らざるを得なくなるかも知れないが、ラーメンを食べるときにはずしても困らないくらいの視力でいて欲しい。

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。