ブロガーではない。

脚本家の微笑み返し

 

 私は、このコラムを書くとき、背筋を伸ばし、キーボードを打つ手はその手の中に卵を優しく持つように丸みをつくり、常に清く正しい姿勢を保とうとしている。もちろん腹筋100回、腕立て100回をしたのち、井戸で水ごりをし、身を清めていることは言うまでもない。

 このコラムを書くCGIは、我が劇団の音楽師匠dbuがつくったものだが、その頃ははまだ世にブログというものはそんなに流行っていなかった。

 それまでhtmlタグの隙間に文章を埋めてアップロードして、「あっ、漢字間違った。」と気づくたびにFTPソフトでサーバーにつないでいた私にとって、このコラムCGIはなんと画期的であったことか。感動と同時に、「私ごときが、こんなに簡単に駄文を世間様にさらしていいものか」と悩んだものだ。

 が、しかし、ブログというものが大流行して、みんなベッドに寝転んだり便器に座ったりしながらお手軽に個人的な日記程度のものを世間様に発表している。

 無名人から有名人まで、あのさっきテレビに出ていたグラビアアイドルだって、自宅のベッドで、風呂上がりに濡れた髪を乾かしながら、あんなパジャマを着て、こんな格好でブログを書いているに違いない。こっ、こんな格好で。ゆ、許されるのかそんなこと。

 私はブロガーではない。風呂上がりにビールを飲みながら巷のあれこれに講釈をたれるような日記を書いていると、夜食にカップラーメンを食べたくなって、ラーメンをすすりながら一応書いたものを読み返し、手がふさがっているので足を机の上に持ち上げ、ちょいちょいとマウスを動かして、足の親指で「送信!」とクリックしたら完全に足がつって、体が固まったまま背中からひっくり返り、ラーメンを頭からかぶってしまうようなブロガーではない。

 インターネットの世界に、個人のホームページを公開できるようになった頃、筑紫哲也氏が多事争論で「ついに個人がメディアを持った」と語ったことが昨日のようだが、今や一部の有名ブロガーが世論を動かすほどに進化してしまった。匿名の有名人がインターネットの世界にいる。

 私は、昔から箇条書き程度にしか日記はつけない。しかも手帳に手書きだ。詳しく文章にしようとすると、やはり読み手というものを意識してしまう。読み手を意識した文章、それはもはや日記ではない。ブログはネット上の日記って簡単に説明されることがあるけど、公開することを前提にしている以上、どうなんだろう。

 もちろん、世に面白いブログもたくさんあって、日記っぽいノリで書いたものでもセンスがよく読み応えのあるものは、私も楽しませていただいている。なので、それらを否定するものではありませぬ。

 ただ、私はブロガーではないので、今日も居住まいを正して、コラムを書いているという訳だ。などと、ブログとコラムはこうも違うということを書きながら、今年だいぶサボったことの言い訳を、遠回しにしているところです。

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。