アンケート

脚本家の微笑み返し

 

 劇団いぶきの公演をいつも遠くから観にきて来てくださる「劇団凪」さんが、11月11日に旗揚げ公演をうたれた。旗揚げのときはぜひ行こうと決めていたのに、われらが劇団も翌日が公演日となってしまい行けなかった。

 初めての公演で、アンケートの辛口コメントに凹んだ話がブログに書かれていた。そんなときに「公演大成功おめでとう」なんていう私のメールは能天気すぎたかも知れない。
 でもホント応援してますから凪さん!

 劇団いぶきは公演でアンケートをとらないことで有名だ(有名か?)。私たちはお褒めの言葉しか聞かない。アンケートをとれば必ず辛口コメントを読まなければならない。たぶん私は半年くらい立ち直れないだろう。私が今生きていられるのはアンケートをとらないからだ。

 22年前、初めて芝居らしい芝居をつくって人前で見せたとき、「訳がわからない」と言われ、失笑され、もう一生芝居なんかしないと、現舞台監督の家のガレージの2階で焼酎を飲んでくだを巻いた。「結構おもしろいとこもありましたよ」とか「BGMの選曲がよかった」とか「上演時間を削るためにホンをいじらなきゃいけなかたんだからしょうがないよ」とか、すべてが、私がそこらで首をくくらないための気遣いにしか聞こえなかったけど、「そうだよね。そうだよね」とそんなみんなの優しさに浸っているしかない自分が情けなかった。一生芝居なんかしたくないと思いながら、でも芝居が好きなんだとポツリと思った。

 私は、今、芝居が好きだろうか?あのときほど芝居が好きだろうか?あの頃は、辺ぴな田舎に住みながら、毎月のように芝居を観に行った。田舎の本屋には絶対売っていない戯曲や演劇雑誌を取り寄せて読んでいた(インターネットもなかったのに)。田舎に住みながら芝居に触れるにはエネルギーがいったけど、それは、体に満ちていた。あの頃は芝居が好きだった。今はどうかな。今は芝居を観るためにチケットをとって鹿児島市内まで1時間かけて車で走るのに、心の底のエネルギーを掘り起さねばならない。そして、芝居をつくるのは、…ちょっとつらい。

 劇団員はどうなんだろう。家族に迷惑をかけたり、家の中にストレスを持ち込んだり、とても趣味とはいえない芝居づくりだけど、みんなが絞り出したエネルギーが集まってくるときには、ちょっと涙が出る。だから、もう老後に茶飲み話するくらいには十分やったけど、もうちょっとやろうと思うんだろうな。みんなが、エネルギーを絞り出しているから。

 だから、アンケートはとらない。辛辣な批評などみんなに読ませたくない。芝居が終わって小屋の出口でお客さんを見る、それがアンケートだ。お客さんの顔に書いてある。辛口のコメントを書きそうな方はそんな顔をされている。ごめんなさいって心で言う。いつももっといい芝居をつくろうと思っている。劇団いぶきは、誰がなんと言おうとそれでいいと思う。
 
 何年もかかって旗揚げにまで漕ぎ着けた劇団凪さん。ほんとに芝居が好きなんだな。やっぱり、旗揚げ公演おめでとう! 

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。