劇団道化「知覧・青春」へのお礼(ネタバレととられる箇所もありますので、ご留意ください)

脚本家の微笑み返し

 

 大きな劇場で有名俳優を擁して公演される芝居よりも、小さな空間でやる芝居の方がクオリティーが高いと思うことが多い。

 都会の人ほど芝居を観る環境に恵まれてないけど、二十数年間いろいろ観た経験から、芝居の良し悪しは、劇場の規模やキャスト、スタッフの数、大道具小道具の豪華さなどとはまったく関係ないと思う。

 常々、我らが劇団の役者たちに、子ども劇場などで巡回している劇団の芝居を観てほしいと言っている。公民館の会議室みたいな空間で、唾が飛ぶようなところに観客がいる。しかも子ども。子どもほど厳しい観客はいない。ごまかしはきかない。そんなところで芝居をつくっている役者さんたちには、「ス、すげえ!」と驚かされることが多い。技術も情熱も。

 劇団道化は九州で初めてつくられたプロの劇団だそうだ。子どもたちのための芝居をこつこつとつくってこられた。以前、「しょうぼうじどうしゃジプタ」や「番ねずみのヤカちゃん」などの子ども向け作品を観たことがある。その劇団が、「知覧・青春」と題する特攻隊をテーマにした芝居をつくり、初日公演を知覧の図書館のホールでうたれた。初日は知覧と決めておられたのだろう。

 この図書館の2階は、おもしろい空間なのだが、ただ狭い階段と小さなエレベーターでしかあがれない。道具を持ち込む搬入口がないのだ。以前私たちも1間×半間の箱を持ち込むのにたいへん苦労した。だから、たいした道具は持ち込めない。しかし、劇団道化さんは、きっともっと厳しいところで芝居をつくり続けてこられたのだろう。みごとなアイデアと演出で演劇空間をつくられた。

 役者の技術も、スゴイことは想像していたけれども、これほどとは思わなかった。あの間や眼球の動きひとつひとつが、唾が飛ぶようなところから観客に観られてきた役者ならではのものかも知れない。

 そして内容。特攻隊を芝居にすることについての私の思いは、今年を振り返る「ほたる かえる」篇で書いた通りだが、この芝居を観て、少し考えが変わったかも知れない。「今日われ生きてあり」でも「月光の夏」でも変わらなかったのに。

 登場する特攻隊員は、上原良司さんをモデルにしていることがすぐにわかった。上原良司さんは慶応大学出身の学徒兵で、「きけ わだつみのこえ」にも登場するあまりにも有名な方だ。権力主義国家の崩壊を予言し「自分は自由主義者として死ぬ」という遺書を残された。鳥濱トメさんに「日本は負けるよ」と話してトメさんを慌てさせた人だ。また、愛読の哲学書クロオチェに◯で囲った活字があり、それをたどると、慕う女性への最後まで明かさなかったメッセージが現れたという。

 実在の特攻隊員をモデルに架空の登場人物を設定する。そのことに違和感を抱いていない自分に驚いた。アリなのだ。私の中でアリだった。決して上原良司さんの苦悩が表現しきれているとは思わないし、その登場人物は上原良司さんではなかった。しかし、上原良司さんのエピソードをわかりやすく反戦のメセージに結びつけていた。わかりやすく。本当は、それが上原良司さんが遺したものに報いる術なのかも知れない。

 私たちの朗読劇は、鳥濱トメさんの手紙を原文のまま語る。それしかないと思っていた。遺族に「喜んでください」と書いた手紙を。そう書かねばならなかった状況、悲しみを感じ取っていただき、反戦への思いに結びつけていただきたと願うが、できているだろうか。

 知覧の劇団としてできることは、ほんとうに朗読劇だけだろうか。また、悩みが増えた。そして悩みの種をくださった劇団道化の素敵な芝居に、心から感謝申しあげます。

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。