金に目がくらんだか?

脚本家の微笑み返し

 

 劇団いぶきの通帳に、2万円くらいしか残金がない。昨年は自主公演を行わなかったばかりか、11月の「やまびこ きつね」の公演で、ずいぶん使ってしまった。朗読劇「ほたる かえる」と、童話劇「やまびこ きつね」は、劇団いぶきのボランティア活動だ。もちろん謝金をいただける場合もある。ありがたいことだ。が、そのときの経費に消えてしまうので、次の作品の制作費のために積み立てるほどの余裕はない。

 もし私が金持ちにだったら、このコラムの内容もずいぶん違ったものになるだろう。

 今回公演する「じいちゃんの日記帳」は、3月にアカデミー賞授賞式に招かれた際、帰りの機上で書き上げた。自宅の50畳の書斎で書くよりも自家用ジェット機のシートで書く方が集中するので、執筆の終盤は、専属パイロットのニックといっしょに空にいることが多い。ニックは気さくないいやつだ。昨年まではトム・クルーズのパイロットだったのを、引き抜いたのだ。トムから苦情が来たが、次の映画に出資することを条件に納得してもらった。「トムを新作に米兵役で出そうかと思うのだが」と、ニックに意見を聞いてみると、ニックはジェット機にワックスをかけながら「ボスの親友のジョニーの方がいいよ」と言って親指を立てた。そうだなジョニーも海賊の映画が一段落したみたいだし、私の頼みなら聞いてくれるかも知れない。ジョニーが出るんだったら、町民会館のホールが手狭になるか。100億円くらい寄付して立て直してもらおう。

 と、「きっとこんなコラムになるに違いないヨ~」(←ここは、ちびまるこが、バカな空想にふけっているときの声で読んでください)しかし、現実には貧乏なので、役場の観光課から「イベントで音響機材とオペレートを…」と依頼が来れば「ヘイだんな、承知しやした。ただ、その、こっちとら貧乏劇団でして、へっへっへっ、おアシの方を…」と揉み手しなければならない。

 金に目がくらむ人間になってしまった。

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。