♪柿の木のある家のオバア

2005年

 

♪柿の木のある家のオバア

2005年「ほたるかえる」挿入歌

庭にぽつんとある 柿の木が紅くなるころ
オモテの四畳半の オバアの座る場所にも
ようやくお日様が 差し込むだろう
このごろオバアは この場所にばかりいて
仏壇の上に飾った 写真と話をするのさ
昔のオバアは その写真をけわしくみつめて
怒ったように 呪ったように
泣き声のよに うめき声のよに つぶやいた
雨も降れ 星も降れ
雪も降れ 花も降れ
虹も降れ 時も降れ
涙も降れ
十九のままの息子に 降りつもれ
十九のままの息子に 降りつもれ

庭にぽつんとある 柿の木に季節は何度も
何度も巡り巡り オバアが自慢にしていた黒髪も
とっくに 白く枯れたさ
このごろオバアは おだやかな顔でみあげる
仏壇の上に飾った 写真と話をするのさ
時間はオバアに あきらめだけを強いたのか
慰めたのか 飲み込んだのか
抱きしめたのか いやただ何にもしなかった
雨よ降れ 星よ降れ
雪よ降れ 花よ降れ
虹よ降れ 時よ降れ
涙よ降れ
息子を抱く オバアに降りつもれ
息子を抱く オバアに降りつもれ

そしてオバアは
この四畳半から
いなくなった

今年も柿の木が実をつけた

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。