ファンクラブについて考える

脚本家の微笑み返し

 

 前回のコラムで、「音楽座」のファンクラブに入会していたことを告白した私であるが、実はJリーグの「横浜フリューゲルス」のファンクラブにも入会していたことをもここに告白しなければならない。「横浜フリューゲルス」も「音楽座」同様、経営危機から「横浜マリノス」に吸収され無くなってしまった。私がファンクラブに入会した団体は、みんな無くなってしまう。「私が愛した人は、きっと私から離れていってしまう」とコートの襟を立てて秋風に背中を押されるように旅に発とうとするヒロインの肩は、エンドロール間際では暖かい胸に抱き寄せられ、そして一筋の流れ星が二人の前途を予感させるものであるので、私が愛した団体が消滅したからといって悲観するほどのものでもない。

 しかし、「横浜フリューゲルス」が無くなったときには、これから何を心の糧にしていけばいいのだろうかと多少はナーバスになったものである。私は、サッカー未経験者にして、サッカーが全世界的に最も普及し、また熱狂的に支持されているスポーツだとは、Jリーグが発足するまで知らなかった。そう所詮ミーハーなのだ。さらに、Jリーグ発足当初の熱狂の傍ら、ちょっと醒めた表情で「いやあ日本リーグの頃はお客さんがいなくてねえ」と苦笑なんぞしている輩には、強い嫉妬を感じるというプライド高きミーハーなのだ。「私はこの女を、君より先に愛していたのだ」と言われたらどうするか。愛した時間に対抗するには、愛の深さを見せるしかないではないか。そういった訳で私は「横浜フリューゲルス」のファンクラブに入会してみせたのだ。どうだ!

 「横浜フリューゲルス」と言えば前園真聖だった。アトランタオリンピック以前の彼のドリブルはすばらしかった。今は韓国でサッカーをしているらしい。彼もまた私から去っていってしまった一人だ。
 「横浜フリューゲルス」も前園真聖も私の前から消えてしまった時、あれほど熱狂的だったJリーグ人気もすっかり落ち着いてしまっていた。しかも「フリューゲルスが終わったら次はジュビロよ」みたいな不節操な私ではない。私は出家剃髪し、「もうどこのチームのものにもならい」と、墓参りをしながらひっそり生きていくことにしたのだった。

 しかし、私はサッカーファンである前に、ひとりの日本人である。日本人である以上は「日本代表」を応援しなければならない。納税、勤労、勤勉、応援が日本の4大義務であることは小学生でも知っているというものじゃないか。出家し正しく生きていくということは、正しい日本人になるということではないか。だから、中田英寿の公式HPを覗いてほくそえんだり、スポーツナビというHPでジーコ監督の会見記録は欠かさず読むことに何を憚ることがあろうか。ああ今、眼前のすがすがしい青空が、私の正しい生き方とあいまって輝いている。2003年9月10日、今日は「日本代表」のセネガル戦である。

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。