顔が痛かった

脚本家の微笑み返し

 

 朝起きると、顔面が痛かった。左眼の端から頬にかけて顔をしかめると骨まで凍みるような痛みを感じた。布団の中にうずくまりながら、その痛みの訳を考える。

 前夜は代行運転で遅く帰宅した。代行の車が去るのを待っていたとばかりに、玄関の前に黒ずくめの男が立ち塞がる。その手には刃渡り20cmのナイフが握られている。そのナイフが私の胸に突き出されるや、私は左に身をかわし、右足でナイフを蹴り落とした。ひるむ暴漢の後頭部に後ろ回し蹴りを喰らわせると、暴漢は2メートルほど先の生垣に吹き飛ばされて一瞬気を失ったかに見えたが、起き上がった。しかしもはや歯の立つ相手でないと悟ったか、傍らの石を私の顔面めがけて投げてから逃げ去ったのだ。その石をよけたつもりだったが、暗闇のため距離を見誤り、石が左眼の端をかすめてしまったのだ……ったかな?

 違った。前夜は劇団いぶきの総会だった。劇団いぶきは今年の秋に「ナム!」の再演、そして来年2月に新作の公演を行うことになった。新たな活動の予定が立ったことへの気持ちの昂ぶりから、その後の飲み会でテンションをあげてしまったようだ。多少飲みすぎてしまったかも知れない。家に帰ると当然妻子は寝静まっていた。私が居間の電気を消して寝室に向かおうとしたその時、窓から幾万の星を集めたような光が部屋に差し込んだかと思うと、身長120cmくらいの2足歩行の見たこともない生物が進入してきて、あっというまに私は連れ去られ、彼らの飛行物体の中で人体実験をされたのだ。その辺りの記憶は定かではないが、気が付いたら私は部屋に戻されており、左眼の端に宇宙人の刻印が押されていた……のかな?

 違った。居間の電気を消して真っ暗闇になったが、そこは勝手知ったるわが家、廊下を歩いて寝室に向かおうとしたその時、突然マグニチュード7の地震が我が家を襲い……なわけないか…。

 結局、顔面の傷の訳がわからなかった。酔っ払って家の壁に激突したなんてことが私に限ってある筈がないのだから。

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。