ねぷた

脚本家の微笑み返し

 

 「劇団いぶき」は、知覧町で開催される「ねぷた祭り」にお囃子隊として毎回参加することにしている。

 なぜ鹿児島で「ねぷた」なんだと訝しがる方もおられよう。話せば長い経緯があるが、今回はおいておく。ま、多くの伝承芸能は、起源を辿れば、他の地方から伝播して残っているものが多い。「ねぷた」は青森県平賀町から知覧町へあっという間に伝播した。「M78星雲祭り」が伝播したのなら驚くが、今日の情報化社会にあって青森鹿児島間を文化が駆け巡ったからといって驚くほどのことではない。縁があって一回やってみたら結構おもしろくて、のめり込んでしまう人が続出してしまい、来年も来年もと続けているうち、9年が経ったという訳だ。これが200年くらいたつと「青森地方と薩摩地方の祭事の類型」について調査する歴史学者が出現し、「30万年前には、東北北部と九州南部は地続きで、日本列島は現在の日本海を中心にドーナッツ状であったことが、両地方に同じ祭りがあることで証明される」と発表したことによって、これまでの歴史がすべて覆ってしまうかも知れないのだから恐ろしい。

 まあ、200年後のことを心配しても仕方ないので、私としては、祭り当日、一夜の刹那を楽しんでいるという訳だ。

 「ねぷた」は、知覧町が親しくお付き合いしている青森県平賀町やその周辺の地域で曳かれる扇型の山車で、勇壮な武者絵や、色っぽい美人画が描いてある。テレビの露出の多い人形型の山車は、「ねぶた」と言う。青森市辺りは「ねぶた祭り」、知覧に伝播したのは「ねぷた祭り」だ。「ねぶた」の方は、お囃子のテンポも速く、踊り手は跳ね子と呼ばれて、ピョンピョン跳ねる。サンバのリズムに近いものがある…か?「ねぷた」はもっとゆったりとしている。のんびりとおおらかな東北人を彷彿とさせるのは「ねぷた」の方かな。そんなテンポがきっと知覧人にも合っていたのだろうと思う。

 知覧でこの祭りが始まって1年目は、オーディエンスの一人だった。山車を曳いたり、太鼓を打ったりしている人たちをうらやましく見ているだけだった。そこで、劇団いぶきで「恋と神様とねぷた囃しと」というねぷたがらみの芝居を無理やりつくって、「僕たちもねぷた祭りが好きなのよ。いっしょに踊っちゃいたいのよ」とアピールして、ねぷた祭りに参入することに成功したのだ。

 今年も、笛を吹いたり、太鼓を打ったり、焼酎を飲んだり、叫んだりと大騒ぎして楽しかった。という訳で、「ねぷた祭り」に参加できるのも劇団員の特典ということにしておこう。

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。