審査員日記?(鹿児島県高校演劇祭南薩ブロック大会)

脚本家の微笑み返し

 

何でも首を突っ込んでみては自分には荷が重過ぎたと後悔する。
 鹿児島県高校演劇祭南薩ブロック大会の審査員を依頼されて、高校生のつくる芝居を観てみようという気軽な興味から引きうけてしまった。

 で、その大会翌日の今日になっても、クヨクヨしている。

 講評も述べなければならず、「この役はもっとこうした方が…」という言い方が、落選した側からしてみれば一人の役者に責任があるような評になってしまったのではないかと気になり、「違うのよ!あなたはとてもうまかったの!そこまでできるあなただから、もっとこうして欲しかったの!」と役者を抱きしめて叫びたい衝動にかられたが、犯罪行為を伴う言動は慎まなければならないという理性が止めにかかり、理性と衝動の間で身悶える私はついに衣服を脱ぎ捨てカッポレを踊らざるを得なかった。

 カッポレを踊ったのは嘘だ。小皿を準備していなかったし…。しかしそれほどまでに、私はこの審査結果への責任の重さに五体が押しつぶされそうだったということを言いたかったのだ。いくら私でも女子高生の前でカッポレは踊れない。小皿があれば別だが…。

 芝居は、比べられるものじゃない。南薩ブロック大会の出場校は2校。どっちかを県大会に推挙しなければならない訳だが、脚本が違う、上演時間が違う、登場人物の数が違う、これをいったいどう比べろというのだ。

 1校は、部員の数も多く、規定時間いっぱい台詞が戦場の弾丸のように飛び交う芝居だった。大道具もある程度建て込んでいたし、SSでアンバー系の明かりを窓から入れたりと、いろいろ気を配っていた。脚本も若くて才能のある方が書いたものだと一読して思えた。8人の役者がそれぞれのキャラクターをつくって、本当に一生懸命、そして楽しそうに演じていた。役者とスタッフが協力してつくっている「ああ、これが高校の演劇部!」と微笑ましく思える作品だった。

 もう1校は4人。昔、私が在学した高校にも演劇部が確かあって、2・3人の女生徒が細々とやっていたような記憶がある。学校の部活全体で演劇部の位置ってそんなものなのかも知れない。吹奏楽部みたいに「所さん」の番組に取り上げられる日が来ることはない…のか?

 女子生徒4人で、たった4人であることにむしろ開き直ったような芝居だった。舞台上には生徒用机が4つあるだけで、何もない。板の上に机がただ4つあるという絵は、実は結構インパクトがあった。もう1校の方の脚本は「高校生に演じさせるんだ」という熱意に満ちた作品だったのに対して、こちらは表現の面白さや奇抜さを狙って、テーマや高校生が演る意味を見出しにくい作品だった。首を傾げる人もいるかも知れない。でも役者は、脚本家が狙ったであろうことを表現しようと努力していて、こちらもまた「これが高校演劇」と微笑ましかった。

 結局、比べる必要もなければ、比べるものでもないものを、無理やり比べて選ばなければならないという罪悪感に苛まれながら、たった2名の審査員で、こっちと決めてしまった。いかん!「ボクはこんなことをするために産まれてきたんではないのです!」と、明石屋さんまの心境だった。できることなら観客を500人くらい入れて投票で選んで欲しかった。500分の1の責任ならお気軽だが、2人はきつい。

 だから言いたい!演劇部員諸君!審査結果なんか気にするな!あの2人の審査員のうち先生じゃない方の、ジャージみたいなのを着てイビキだかイブヒだか変な名前の劇団の奴は、ロクでもない奴なので、特に気にする必要はないぞ!そして諸君!客に向かって芝居しよう!客の脳みその中に芝居をつくろう!審査される芝居じゃなく、客といっしょにつくる芝居をやろう!そのために私にできることがあれば…えーい!カッポレだって踊ってみせよじゃないか!

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。