劇団凪さんの公演に思う

脚本家の微笑み返し

 

 20年くらい前、NHKの劇場中継で、劇団青い鳥の「シンデレラ」という芝居を観た。ナマで観てないので、「私の生涯の好きな芝居ランキング」には入れていなかったが、「映像で観たものも含めた生涯の好きな芝居ランキング」では確実にベスト5に入る…と思われる。

 ビデオに録画して何回も観た。今いっしょに芝居しているdbuやFukuda夫妻も、たぶん何度もそのビデオを観ている。今のibukiのスタイルを確立する以前、小劇場系の芝居に傾倒しつつあった頃、唐十郎や竹内銃一郎などの情報とともに、僕らの目の前にバーン!と現れた。強烈だった。ナマで観たかった。

 劇団青い鳥の座付作家は、一堂令という名前だ。「一同礼」から来ている。全員で稽古しながら口立てで脚本をつくっていくから一同礼という訳だ。劇団青い鳥は今も活躍していて、そして今でも作家は一堂令らしい。インターネットで検索したら、「シンデレラ」にも登場した何人かの役者がサイトを飾っていた。嬉しかった。

 劇団凪さんの公演を観たから青い鳥を思い出したのだ。劇中終盤で、WAさんがクロさんと手をつないだ瞬間に、僕は少し鼻の奥が熱くなるのを感じて、そして、青い鳥の「シンデレラ」を思い出していた。

 凪さんの芝居は、即興劇をやりながら書き起こすという手法で脚本を完成させたらしい。僕は、凪さんのサイトに注目していたので、創作の進捗状況をも把握していたのだ。どんな芝居ができるか楽しみにしていた。

 みんなが、思い思いに芝居をしていた。分離する融合、わがままな団結、人の芝居の尻馬に乗りながら、そこを破壊し、壊し合いながら創造し合っている。エチュードを重ねた芝居ならではの雰囲気だ。エチュードをふくらませてひとりの作家が書いた芝居ではない。芝居はたいていひとりの作家のわがままだ。しかし凪の芝居は、全劇団員がわがままをして、全劇団員でまとめきった。よくあきらめずにまとめたものだ。もしかしたら、劇団凪は、公演を重ねるごとに、すごいことになるかも知れないと予感した。

 果たして…。青い鳥の「シンデレラ」を思い出した。凪さんがやろうとしていることが、青い鳥と共通するのかどうかわからない。ただしかし、青い鳥が、80年代の小劇場ブームの中で、野田秀樹や北村想、渡辺えり子などの激しい個性の作家がひしめく中で、一堂令という虚構の作家を立てて演劇の世界に挑戦したように、凪さんが凪さんのスタイルを鹿児島市内の真ん中でぶち立て走り始めたことに、僕はひっそりと一人で祝杯をあげたのだ。

劇団いぶき

劇団いぶきは、鹿児島県知覧町で40年以上活動している劇団です。