「いよいよ、やるの?」と言われた。
たぶんあのことだ。「どうして知っているのですか」と問いたい気持ちをぐっと堪えた。嬉しいような、恥ずかしいような気分だ。
「もうこんなに乾いていい感じになってきました。もうそろそろいいんじゃないかって、僕も思うんです」と、私は右足のズボンの裾をめくってみせた。
私の膝のカサブタのことを知っている人がいるのにも驚いたが、ズボンの裏に隠された私のカサブタが、もう一気にはがしてくれと言わんばかりに、端をひらひらと浮かせている様にも心奪われた。私が時を忘れてカサブタと語らっている間に、「いよいよ、やるの?」と私に問うた人はいなくなってしまった。せっかく喜びを分かち合えると思ったのに。
「いよいよやる」と言えば、劇団いぶきも、いよいよ新作を発表することになっている。しかし、劇団員の体調やら家庭の事情やらを勘案し、直ぐには行わない。ただ、演劇見本市をよい経験に、本公演を想定した稽古用の脚本をいくつか書いてみたい。面白かったらどこかで、予告編第2部としてやってもいい。なんだか楽しそうだ。
そんな劇団いぶきのことではなく、私のカサブタに興味があるあの人は何者だったのだろう?